ふるさと、トルコのよもやま話 トルコ料理トプカプのページへもどる

僕が生まれてから19年間を暮らした、トルコでの思い出話のひとコマを、ちょっと綴ってみました。
 とはいっても日本語の文章に自信がないので、妻に手直ししてもらいながら、です。

<近所のおじさん>

トルコの僕の実家の近くに、ある強烈な印象を放つ家族が住んでいた。
家はお金持ちなのだが、おじさん、おばさんともに、とても威張っていて、
どこにいても何かと仕切りたがる癖があり、近所の人々からは煙たがられていた。

でも僕や僕の家族のメンバーは、何故か、よくその家族から家に招待されることが
多くて、僕も幼い頃からよく母に連れられて、その家のティータイムに出かけていた。

その家のおじさんはものすごく太っていて、いつもリビングの大きなソファに
どっかりと座ったまま動かず、まるで部屋の中に巨大なが置いてあるみたいだった。
そして、身体から1mすら離れてない場所にある物を取るために、わざわざ大きな声で
「オーイ!その○○を取ってくれ!」
と誰かを呼ぶような人だった。

僕が学校に通う年頃になると、僕は、よくその家のおばさんやお姉さんたちから、
「○○を買いに行って、家に届けてちょうだい」と買い物を頼まれるようになった。

トルコでは、目上の人に逆らえない文化があるので、頼まれたら買いに行くしかない。
しかし僕は長男なので、自分の母からもしょっちゅう買い物やら届け物を頼まれる
事が多く、ただでさえ遊びたくてしょうがない年頃の中、その貴重な遊び時間を
削って買い物に出かけて行くのが、内心不満だった。

それになんといっても、その家族はケチな事でも有名で、普通は近所の子供に
買い物を頼むと、ガムやチョコレートが買えるぐらいのお駄賃をあげるのに、
そこの家では1クルシュだってくれないのだった。代わりに、「ハイ、これ」と新聞紙を
丸めた包みを渡されることがあった。中を開くと、
バラバラに割れたクッキーの欠片!!
どうみても、家でクッキー作りをして失敗した部分か、間違って床に落としたやつを
拾い集めたのかのどちらかだった。 

僕の父と母の名誉のために言うと、僕の家は別に、
すごく貧しい家という訳ではなかった。
むしろ父は、家業で成功を収めていて、多くの親戚や近所の人たちを助けていた。

「ねえ、何で、あの嫌われ者家族と、ウチは仲良くするの?」
と、素朴な疑問を持って、父に尋ねてみたことがあった。
すると、父は「あの夫婦には昔の恩があるんだよ」と言った。

「え〜! 一体どんな恩が!?」 
と聞くと、なんでも僕の父と母が、昔、お互いの両親から
結婚を反対されて、かけおちして一緒になったときに、暫くは小さなぼろい家を
借りて住んでいたらしいのだが、若い二人には当時、家具や布団を買うお金もなく、
そのときに、その夫婦が毛布と敷布団を貸してくれたのだそうである。
くれたのではなく、貸してくれたというところが、さすがにケチ家族・・・か?!

おかげで、我が家は一生、彼らには頭が上がらないというわけだった。

その彼らの親戚にオレンジ農家がいるとかで、オレンジが収穫される季節になると
その家にはいつも大量のオレンジが運ばれてきていた。
そして毎日のように、僕や妹は、「みかんを食べに来なさい」と、
彼らに呼ばれるのだった。
僕と妹がその家に上がろうとすると、必ずおばさんから
「待ちなさい! 雑巾で足を拭きなさい!」
と怒られた。
なんでも一日に必ず2度は床掃除をするという、彼らは潔癖家族なので、
その家の中では、勝手に何かに触るとしかられそうで、いつも居心地が悪いのだった。

そして、リビングでは大人たちがお喋りしながら、大量のみかんを食べているのに、
子供たちはこぼすから、という理由でキッチンの片隅に追いやられ、そしてなんと、
おばさんはみかんの山の中から、腐りかけたヤツだけをいくつか選び出し、
それらを僕ら子供たちにくれるのだ! 
そして「この緑のカビの部分は除いて食べるんだよ」と言って、出ていった。

「今日もまた、腐ったみかん食べに行くの!? もうイヤだよ!」
あるとき僕は、母に叫んだ。 
「何言ってるの、さぁ、行くよ」
母は、僕の言ってる意味をよく聞かずに僕を急かした。

「腐った・・だって!?」 
そのとき、たまたま家にいた父が、それを聞きつけてやってきた。
僕は、「そうだよ! あのおばさん、いつも子供たちには腐ったみかんを
食べさせるんだから」
と、必死の形相になって父に訴えた。
父はしばらくの間、ムムム・・・・と考え込んでいた。
そして、「お前たち子供は、今日から行かなくていいぞ」と言った。
その日を境に、僕と妹は、ようやく「腐ったみかん攻撃」から
解放されたのであった。

あとで聞いた話だが、あのあと父は、さすがに酷いと思ったのか、その家に
抗議に行ったらしい。すると、なんと彼らは
「みかんのカビの部分は、ペニシリンだから薬にもなる。だから身体に悪いわけはない。」
と、とんでもない言い訳をしたそうだ。
はぁ!? じゃあ、なんで自分は食べないんだよ??


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トルコ料理店トプカプ ユナールの幼少時代